①ドイツ連邦軍の軍楽儀礼(Großer Zapfenstreich)
私の「ドイツ」は軍楽から
皆さんが「ドイツ」にご関心を持たれたのは、何が切っ掛けでしょうか。私にとってはドイツの軍楽、即ちドイツ語の軍歌やドイツ軍の行進曲が入口になりました。私はそこからドイツ語の響きを知り、ドイツの文化を学び、大学ではドイツ史研究への道を歩みました。とはいえ、現在では軍隊と直接関係の無い研究に取り組んでいるので、数奇な経歴と言えるかもしれません。いずれにせよ、最初は個別的なテーマから特定の地域に興味を持ち、もっと広く深い問題関心を持つようになるというのはよくあることです。「ドイツ」と言えば、童話に出てくる王侯貴族の城や館、飲み屋のビールやジャガイモ、戦争映画で見られる厳つい軍隊の制服などが真っ先に思い浮かぶかもしれません。今回は、そんな様々な切り口から「ドイツ」へ誘う試みとして、南直人・谷口健治・北村昌史・進藤修一編『はじめて学ぶ ドイツの歴史と文化』を紹介します。
②『はじめて学ぶ ドイツの歴史と文化』
ドイツ史の様々な入口
本書は二部構成になっていて、前半部がドイツ史の概説、後半部がテーマ別のドイツ史です。前半部の概説は日本のドイツ史研究の成果に基づく標準的なもので、非常に分かり易い記述で中世から現代へ至るドイツ史の流れが把握できるようになっています。しかし、前半部は飽くまで「前座」であり、本番は後半部です。後半部では、それぞれ「衣」「食」「住」「学校」「ツーリズム」「海」「大統領」「貴族」という視点からドイツの歴史が語られます。要するに、各執筆者の関心に合わせてドイツ史が書かれているわけですが、これらは読者にとっても格好の導線になることでしょう。外套や軍服などの「衣」、ビールやジャガイモに代表される「食」、集合住宅や上下水道を肝とする「住」は、ドイツの生活文化の一端を垣間見せてくれます。人格の形成や社会の安定に必要な「学校」、旅行好きのドイツ人にとって重要な「ツーリズム」、ハンザ同盟や帝国海軍の舞台となった「海」は、通史叙述では拾い切れないドイツの別の側面を見せてくれます。ドイツ革命後から皇帝に代わる国家元首として設けられ、現在まで続く役職「大統領」、ゲルマンの部族制から始まり、長くドイツの政治を左右してきた「貴族」は、ドイツの政治文化を知るには見逃せない材料です。
③貴族出身のヴァイツゼッカー大統領
我々は「ドイツ」に何を見るか
本書の冒頭は、「日本に住むふつうの人々にとって、ドイツという国はどのような存在であろうか」という問いから始まります。「ドイツ」に中世のロマンを想う人も居れば、軍隊の規律を見る人も居て、教養主義の香りを感じる人も居るし、民主主義の模範を求める人も居るでしょう。また、その歴史を知るうちに、「ドイツ」を見る目が変わっていくことだってあるはずです。この本を読み終わった時、皆さんにとって「ドイツ」はどのような姿で浮かび上がってくるでしょうか。そして、小さな入口から足を踏み入れた皆さんの関心は、どのような経路を辿って、何処に行き着くでしょうか。
④ニュルンベルクのクリスマス市
林 祐一郎(大阪日独協会学生会員・京都大学大学院文学研究科修士課程)
<書誌情報>
南直人・谷口健治・北村昌史・進藤修一編『はじめて学ぶ ドイツの歴史と文化』ミネルヴァ書房、2020年。
https://www.minervashobo.co.jp/book/b533875.html
<画像出典>
①https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/0/00/Gro%C3%9Fer_Zapfenstreich_Ramstein_Air_Base_2002.jpg, 2020年12月14日閲覧確認。
②https://www.minervashobo.co.jp/book/b533875.html, 2020年12月14日閲覧確認。
③https://www.bundespraesident.de/DE/Die-Bundespraesidenten/Richard-von-Weizsaecker/richard-von-weizsaecker-node.html, 2020年12月14日閲覧確認。
④https://www.christkindlesmarkt.de/der-markt/die-schonsten-bilder-vom-christkindlesmarkt-1.2258459, 2020年12月14日閲覧確認。
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