ドイツ四方山話

欧州チャレンジとドイツでの出会い ―UTSUWAプロジェクト@Berlin―

2020年12月5日。この日はドイツ滞在で最も記憶に残る日の一つとなりました。
ベルリンのアートスペースMehringudammで念願のUTSUWA(うつわ)を製作し、展示することができました。
UTSUWAとは組立て式和室のプロトタイプです。

現地の木工職人やデザイナー等によるプロジェクトメンバー10人と当日サポーターによって実現しました。
このプロジェクトの原点は、日本で2015年からスタートした器プロジェクトです。

伝統的建築技術を継承発展していく為に、木工、畳、表具、ガラスの職人さんたちと結成した器プロジェクトメンバーで「組立て式和室」を開発。それを四天王寺やハイアットリージェンシー京都、ギャラリーなど複数の場所で3年間展示やワークショップを開催してきました。これをヨーロッパでも展開することはできないだろうか。というのが私の欧州チャレンジの目標の一つでした。しかし、異国の地で資金も人脈も言語力もない私が、それを叶えることが出来たのは奇跡といっても言い過ぎではないように思えます。

日本で建築設計を仕事とする私は昔から「職人さん」を尊敬していました。マイスター制度や優れたものづくりのイメージがあったドイツに興味を持ち、職人さんたちがどのように活躍しているのか、この目で確かめ、できれば器プロジェクトでコラボできないかな。とドイツ行きを決めました。実現の確証もないまま渡独した私は、ビザの取得に始まり言語や文化の違いに日々戸惑いつつも、日本で紹介してもらった人との面会や現地での出会いを少しずつ広げ、思いや構想を伝えました。建築家協会、独日センター、日本大使館などへもアプローチしました。しかし、現実は甘くなく、興味や好感を持ってくれる人はいても実際のプロジェクトを共同・協働する人にたどり着くことができないまま、あっという間に1年が経ってしまいました。

滞在を延ばして挑んだ2年目は「千三つ」の精神で手当たり次第アタックしました。でも、なかなか実らない。帰国までにどうしても何かアクションをしたいと思う私は焦っていました。そこへコロナです。世の中が変わって今までにない社会の異様な変化をドイツで体験しました。その時私は、思いました。ダメモト上等。渡独前から何かができる確率なんてそもそも低かったんだ。実現しようとしまいと出来ることを全部やって帰ろうと。ロックダウンと閉鎖間の中で、私は逆に開き直ることが出来ました。
返事が無くても方々へアタックを続けプロジェクトメンバーを探し、SNSでも呼びかけをし続けました。そしてついに運よく素晴らしい出会いがありました。帰国日が6ヵ月後に迫った2020年6月10日、6人のメンバーが集いました。

建築家やデザイナー、CGクリエーターや化学の先生まで様々な分野のメンバーは、スペイン、イタリア、クロアチア、アルゼンチン、ドイツととても国際色豊か。さすが外国人率35%越えのベルリンならではの現象と、改めて国際都市を実感。集ったメンバーは好奇心旺盛で共通して日本のものづくりやデザイン、文化に好感とリスペクトを持ち、プロジェクトに参加する意思を示してくれました。

しかしこの時点では、まだ物を作る職人メンバーはゼロ。言語も違えば目的も違う私たちは、資金も表現の場もスポンサーもいない中、共有できる興味とそれぞれのスキルを活かしてアクションをしていこうで話し合い出来ることを模索しました。いろんなことを並行して検討しつつ作り手メンバー探しも続けた結果、日本の手仕事に興味を持ちプロジェクトに参加してくれる木工職人さんが現れたのです。その後も各メンバーの呼びかけによってUTSUWAプロジェクトメンバーは計10人になりました。

コロナ、資金、場所探し、苦戦しながら私たちは自腹で資材を買い、自分たちでデザインした小さな和室を作り始めました。運よく発表の場となるアートスペースが無償で利用できる事となり、ぎりぎり帰国3週間前にベルリン生まれの和室を作ることが出来ました。何の縁もゆかりもなかった地で見知らぬ多国籍のメンバーとプロジェクトを立ち上げ、簡素とは言え実物をつくる事が出来たのは私にとって奇跡でした。朝から晩まで長くてクタクタになったこの日の達成感を私は今も忘れることが出来ません。
この多彩なメンバー1人1人との出会いが私の欧州チャレンジでかけがえのないものとなりました。昨年の制作発表はスタートの一歩です。今も彼らとオンラインでやり取りし合いながら、次の計画を練っているところです。

今私は、渡独した当初より益々ドイツと多国籍のベルリンに関心が深まっています。特に人々の生き方や感性に魅力を感じます。2年2か月のドイツ滞在での沢山の出会い、日本では感じ得なかった深い文化体験。長かったような、あっという間だったようなドイツライフは充実していました。今後もドイツとのつながりをさらに深めていきたい。そう思うようになりました。
運よく帰国直前に3年のビザを取得できたので、コロナ禍でもドイツに行くことが出来ます。まずは、日独交友160年の今年、出来ることを探しUTSUWAプロジェクトパートⅡに向けてチャレンジしたいと思います。

2021年4月
建築設計室Morizo-
内田利惠子

関連記事

  1. 《読書案内》ドイツと日本の「現代史」を振り返る-中井晶夫『二つの…
  2. 《読書案内》【ナチスに接近した稀代の思想家―蔭山宏『カール・シュ…
  3. 《読書案内》どうしてカントとゲーテの国でヒトラーが?―野田宣雄『…
  4. ⑥ローザ・ルクセンブルクのための記念碑 《読書案内》ベルリンに名を残す女性革命家―姫岡とし子『ローザ・ル…
  5. 【猫にヒゲ、メルセデス・ベンツには耳!】
  6. 貴方の「ドイツ」は何処から?―南直人・谷口健治・北村昌史・進藤修…
  7. 【私とトラバント :ドイツ統一30周年にあたり「走る段ボール車」…
  8. 【ベルリンの中の日本―「混沌の都」で出逢った日本人たち】

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


おすすめ記事

  1. 《読書案内》ベルリンに名を残す女性革命家―姫岡とし子『ローザ・ルクセンブルク』 ⑥ローザ・ルクセンブルクのための記念碑
  2. 第4回ドイツ・ナレッジセミナーの報告
  3. 日独響演:響き合うチター・チェロ・ピアノ

おすすめ記事

5月のオンラインSprachtischを開催しました

毎月最終土曜日に実施しているオンラインでのSprachtischを5月も開催しました。今回もバイ…

PAGE TOP